桜離れ【オリジナルシナリオ】

問題を抱えたサラリーマンが、妖怪と一緒に桜を見に行く話。

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【タイトル】
桜離れ

【あらすじ】
独身サラリーマンの祥太は妖怪のギロと一緒に暮らしていた。面倒見の良い祥太にギロは懐いていた。
ある日、テレビで桜前線の報道を見たギロは「桜を見に行きたい」と言い出す。ギロは〝桜離れ〟と呼ばれる妖怪だったのだ。一緒に桜を見に行く約束をする祥太。
次の日から、自分の事を自分でやりたがるようになるギロ。祥太はいう事を聞かないギロに苛つき始める。そして祥太の後輩社員もまた、祥太を頼らずに仕事を成し遂げたいと言い出す。
しかし失敗続きのギロ。ついに「自分には何もできない」と全てを諦めてしまう。
励まそうとして自分の過ちに気付く祥太。他人を思いやって面倒を見ていたつもりの祥太だったが、他人の成長の機会を奪ってしまっていたのだった。
ギロと和解し、一緒に桜を見に行く祥太。そして、祥太は会社でも変わり始める。
(約10分尺・ペラ20枚)

【登場人物】
原 祥太(30) 会社員
ギロ       妖怪

山井 輝(27) 会社員

社員A
社員B

【本文】

○祥太の家・キッチンダイニング(朝)

    マンションの一室。洒落た清潔な部屋。

    食卓で卵かけご飯を作るワイシャツ姿の

    原祥太(30)。

    向かいの席にはトーストを齧っている少

    年がいる。

祥太「ギロ、醤油取ってくれ」

    パッと顔を上げる少年改めギロ。その肌

    は緑色で、目もギョロリと大きい。

    ギロ、調味料入れに手を伸ばし、迷って

    塩を手に取る。

祥太「(笑って)違う違う」

    と腰を浮かせ、醤油を取る。

    「あっ……」となるギロ。

祥太「いいよ、ありがとな」

    と、ギロの頭をくしゃっと撫でる。

    微笑むギロ。


○タイトル「桜離れ」


○Xサイバー本社ビル・事務所

    壁には新規アプリの広告が貼られている。

    バタバタと走り回っている社員たち。

    その中心で指示を出しているのは祥太。

社員A「原さん! 先方と連絡つきました!」

祥太「オーケー、あとこっちでやるから」

    隅っこにぽつんと立っている申し訳なさ

    そうな顔の山井輝(27)。

    やって来る祥太、ポンと山井の肩を叩き、

祥太「気にすんなって。大丈夫だから」

山井「……はい、すみません……ありがとう

  ございます……」

    祥太、腕まくりして去って行きつつ、

祥太「そっち、データ修正終わりますか?」

社員B「あと少しです!」

    うつむいて唇を噛む山井。


○祥太の家・リビング(夜)

    晩酌中の祥太と、その隣でくつろいでい

    るギロ。テレビを見ている。

    テレビに桜の写真が映り、

アナウンサーの声「桜の開花は平年より早く、

  関東では来月頭には満開になるでしょう」

    ギロ、じっとテレビを見て、

ギロ「……桜、見たい」

祥太「桜?」

ギロ「……ギロ、は〝桜離れ〟だから」

祥太「サクラバナレ?」

ギロ「寒いとき、人間に助けてもらう。いっ

  ぱいの桜見たら、空に行く」

祥太「(笑って)空?」

    真剣な顔でうなずくギロ。

    祥太、首をかしげ、

祥太「……へぇ、そうなんだ?」

    と、テレビに見入るギロを見つめる。

       ×   ×   ×

    祥太の回想。

    ひとけの無い商店街。雨が降っている。

    シャッターの下りた店の軒下。

    に、駆けこんでくる祥太。ふーっと息を

    つき、ふと隣を見てぎょっと目を見開く。

    そこに震えているギロがいる。

       ×   ×   ×

    目を輝かせてテレビに見入っているギロ。

    祥太、ぐいっと酒を飲んで、

祥太「……なんで俺は、お前と出逢ったんだ

  ろうなぁ」

    と、ギロの頭をくしゃっと撫で、

祥太「咲いたら一緒に見に行こう。桜、すご

  いとこ連れてってやる」

ギロ「うん!」


○同・リビング(朝)

    ギロのくしゃみが響いている。

    やって来る祥太、床に座り込んで濡れた

    パジャマを脱ごうとボタンと格闘してい

    るギロを見つけ、

祥太「どうした? びしょびしょじゃんか」

ギロ「……夜、水のみたかった」

祥太「ああ、それでこぼしたのか。起こして

  くれりゃ良かったのに……ほら、やったる」

ギロ「やだ。ギロ、やる」

祥太「出来なかったんだろ?」

ギロ「(泣きそう)……でも、やだ!」

    と、祥太に背を向ける。

祥太「(ため息)なんなんだよ……」

    と、時計を見てハッとなる。

祥太「おいギロ! 遅刻するから……ほら、

  貸せって」

    と、無理矢理に脱がせようとする。

ギロ「やだー!」


○Xサイバー本社ビル・事務所

    祥太、入ってきて、

祥太「はぁ……間に合った……」

    と、資料棚を漁っている山井を見付け、

祥太「あれ、まだなんか残ってた?」

山井「あ、原さん……」

祥太「何が終わってない? あと俺やるから、

  任せろって」

山井「あの……あとは僕にやらせてくれませ

  んか」

祥太「(怪訝に)……また失敗したら、恥か

  くのはお前なんだぞ? そもそも最初に俺

  に言ってくれれば良かったのに」

山井「でも僕……いつも原先輩にやってもら

  って……何もできないままじゃ……」

祥太「あのなぁ、無理にやらなくても」

    かぶせて、始業チャイムの音。

祥太「……全部俺がやるから。朝礼始まんぞ」

    と、山井の肩をポンと叩き、自席へ去る。


○祥太の家・リビング~玄関(夜)

    電気をつける祥太。

    ソファの上で丸まっているギロを見つけ、

祥太「おい、ギロ。電気くらいつけろよ」

ギロ「ん……」

    「?」となる祥太、ギロの顔を覗き込む。

    汗だくで息が荒いギロ。

祥太「! おい、お前熱あんじゃねえの」

    はっと起きて逃げるギロ。

祥太「待て、ちゃんと着替えて寝てねえと」

ギロ「やだ! 全部、ギロできる」

祥太「出来ないだろ! こら、待てって」

    と、ギロを無理に押さえようとする。

    ギロ、弾けて逃げて、

ギロ「祥太のばか!」

    と、玄関へ走り、ドアを開けて外へ。

祥太「あンの馬鹿っ!」


○通り(夜)

    あたりを見回しつつ駆けて来る祥太、倒

    れているギロを見つけ、駆け寄る。

    ギロ、祥太の手を弱々しくはねのけ、

ギロ「やだ……」

祥太「俺が全部やるから。無理すんなって」

    と、ギロを抱きかかえて去る。

    パリン! と皿の割れる音。


○祥太の家・キッチンダイニング(朝)

    割れた皿を呆然と見ているギロ。

祥太「だから、ギロはやらなくていいって!」

    「……」と悔しそうにうつむくギロ。

    やれやれと皿を片付ける祥太。

    テレビに花見の様子が映っている。

アナウンサーの声「今週末はいよいよ満開と

  なる見込みです。天気もよく、お花見日和

  になるでしょう」

    「……」とテレビを見る祥太とギロ。

祥太「……今週末……行くか、桜」

ギロ「……行かない」

祥太「え」

ギロ「……ギロ、何もできないから……一人

  で、空なんていけない。行きたくない」

祥太「何もってお前なぁ、俺が教えてやるか

  ら大丈……(ハッとして)あ……」

    涙目のギロ、祥太に駆け寄り顔を埋める。

    祥太、何かを思い出して、

祥太「……昔な、俺、仕事で大変な目にあっ

  てさ……出来もしない仕事押し付けられて。

  一人で頑張ったけど、結果は散々で……馬

  鹿にされて、恥かいてさ……」

ギロ「……祥太……?」

    祥太、屈んでギロと目線を合わせ、

祥太「でも違うな、これじゃ……ギロ、ごめ

  ん……ごめんな……」

ギロ「……」

祥太「ボタン外すの、一緒に練習しよう。お

  皿も一緒に運ぼう。醤油と塩の違いも教え

  る……ギロが出来るまで、一緒に」

ギロ「!」

祥太「……そんで一緒に、桜を見に行こう」


○××公園

    ひとけのない桜並木。

    大きな帽子を被ったギロと手を繋いでや

    ってくる祥太。

祥太「……ギロ、見てみ。綺麗だ」

    上を見上げるギロ。

    その刹那、風が吹いて桜吹雪。

    ギロの帽子が飛んで行く。

祥太「ギロ!」

    と、見回すがギロの姿は無くなっている。

ギロの声「祥太、ありがとう」

    はっと振り返る祥太。

    そこには、おどろおどろしいギョロ目の

    怪物が。

    しかし微笑む祥太。

    怪物、優しくまばたきして翼を広げる。

    ゴウッと風が吹いて身構える祥太。

    顔を上げると、そこに怪物の姿は無い。

祥太「ありがとう、ギロ……」


○Xサイバー本社ビル・事務所(早朝)

    パソコンに向かって難しい顔の山井。

    ドサッと山井の横に座る祥太。

山井「え……?」

祥太「早くプロジェクトのファイル開け。ど

  こでつまずいてる?……話してくれ」

                 (おわり)